　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　現代文明を拒絶して
　―たしかに、あの〝事件〟に問題が集約されていると思いますね。
大仏　あの問題をとりあげれば、あそこに問題が集約されてるわけです。それに、福祉だけ
じゃなくて、〝権力〟の問題とか、福祉行政をすすめる役所とぼくたちの関係とか、内部の
権力という問題もあるし、いろんな問題がふくまれているわけです。
　矢田竜司君の子どもを寝かしつけようとした時、「もう少し黙っていてくれれば寝ちゃう
ものを」と感じていた時に、「やめてくれよ」なんて言うもんだから、ぼくが腹をたてた。
そしたら、「それは、和尚の横暴だ」とか何とか、よく覚えていないが警察の調書によくの
っていると思うが、そういうもんで、ぼくが腹をたててしまって〝事件〟に結びついちゃっ
た。皆も、抵抗しろと言ったことなんだよね。結局「おれがこれだけやっていてもこいつら、
そういう受けとり方しかできないのか」と。
　だけど、それは、そう簡単にもいかないんでね。と言うのは、矢田君と言うのは、小学生
の時、両親をなくしちゃったんですよ。で、姉と二人兄弟、施設から施設へとまわって、都
の職業訓練所で靴の訓練を受け、靴屋にちょっと勤めたこともあり、それから、製本屋にな
ったりね。それで、うちへきたのは、自殺しそこなった後にきたわけですよ。そのことは、
彼の姉さんが『主婦の友』に書いたのが当選してでているけれど、結局、身体障害者で両親
がなく、施設から施設へ歩いてくれば、心がひねくれるわけですよ。ひねくれざるを得ない
わけだ。そうして、自殺ということになって、自殺しそこなって閑居山にころげこむ。彼が
ころげこんできた時は敗北の身で、一時、山にこもったというのでしょうね。だから、そう
いう奴をめざめさせて「ＣＰの解放区」を確立していかなければならなかった。彼は、「差
別文明」の中なかでいきてきたわけだから。
　ＣＰが現代文明を拒絶して、自分たちの文明を自分たちでつくって、ＣＰだけの独立人民
共和国をつくるというのがぼくの発想なわけだ。ところが彼は、そういう気になんかとても
なっているわけないんだから、だから、自殺なんかはかった。そいううふうな思想改造をし
ながらだから、やることがいくつもあった。生活共同体として保っていかなければならない
し、思想改造もしなけりゃならない。共同体を成功させるためには、そういう発想をもった
人間がいなければならないいんだが、実際には、なかなかそうならなくてということです。
それが、あの〝事件〟」になるわけだけれども、ぼくも、その時には、その前からもあった
けど、「いくらやってもダメか」という感じをもったね。
　―文明を拒否して山の中へ行って原始生活をするヒッピーみたいのが、この数年来出てき
ていますが、どうもドロップ・アウトになっちゃうんじゃないかという気がするんです。「健
全者」と文明の関係でいえばどうなんでしょう。
大仏　「健全者」とＣＰの関係は、終始一貫して、うちの会のテーマであるわけです。現代
文明、いや文明とかぎらず、人間そのものなんだろうな。何か〝ロス〟を、〝犠牲〟を排泄
しなければ、人間は生きていけないというところに、そもそもの由来があると思う。だから、
両者は排泄した者と排泄された者の関係ですよ。ドロップ・アウトも反逆者もふくめて、あ
るいはひねくれ者、現象的にはＣＰとか、知恵遅れとか、犯罪者とかは人間がつくりだした
ものでしょう。そういうものをつくりだすことによって文明は成り立っていくものだ。文明
がそういうものをつくりだしたんでなく、逆に、そういうものが文明をつくっていると思う。
だから、人間が文明社会を営む以上、絶対にそういった排泄物が消えてなくなることはない
と思う。

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