　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〝非情〟は成仏しない
　―「優生保護法」の問題について……
大仏　障害者には不良な子孫とか、障害者は生まれない方がいいと書いてあるのはけしからん
というのがうちの会の方針です。ウーマン・リブの場合、子どもを生むのは女の権利、役所や
法律が何かいうのは筋が違っているという考え方ですね。それから、もう一つは労組の婦人部、
「優性保護法」改正の条文のなかに、貧困家庭はないというのがあるが、現実に貧困家庭があり、
それを理由に妊娠中絶ができないのは子丸おという考え方です。うちの会とはそれぞれ違う考
え方です。
　あれが廃案になった決定的理由は、「医師会」の二人があの案に反対したからです。保革伯仲
しているから、二人の与党議員が反対にまわちゃったから、厚生大臣も仕方がなくておろしたん
だけど、なぜ、「医師会」が反対したかと言うと、表面の理由は、「退治チェックとか胎児診断
は、まだ、技術が完全でない。完全でないのを医師会に押しつけられても困る」というのが理由
です。だけど、ぼくから言わせれば、あれが通っちゃうと産婦人科医が儲からなくなるからだと
思う。誰も、そう思うでしょう。
　だけど、厚生大臣はそのことは言わないで、「身体障害者の団体も反対していますから」と言
う。政治というのはそういうもんだろうと思う。それぞれ違う理由で反対して、最後には、与党
議員もひっくりかえる。政治は、あくまでもチェック・アンド・バランスで動いていくんだと思
う。うちの会あたりがわめいたから〝火つけ役〟になったんで、それはそれで、「医師会」が反
対しようが、労組の婦人部が反対しようが、それはそれで、ありがたいと思うんだ。不純だとい
われようが、かまわない。政治とは、しょせん、そんなものだから。ぼくの考え方の一つの基調
には、「念仏」の理論がある。「念仏」の理論で、ぼくは良く『歎異抄』を引き合いにだすけど、
それだけじゃないんだ。必ずしも、親鸞主義者じゃないけれども、『歎異抄』がよくまとまって
いるので、よく使わせてもらっているだけのことです。『歎異抄』に代表される「浄土教」とい
うのは、「悪人正気機」で、それは比叡山で発達した考え方です。一般には親鸞から始まって、
その先生の法然から深まったものだと言われたり、法然は「念仏」をもって比叡山から独立した
んだと言われて、それも嘘じゃないんだけれども、法然や親鸞のような考え方が出てくるもとは、
ちゃんと比叡山のなかにある。比叡山の考え方は、「法華一乗」という考え方で、「善人も悪人
も全部成仏する」ということです。つまり「草木国土悉皆成仏」ということです。その思想を底
の方で支えているのに「悪人正機思想」がちゃんとあったんです。それは、法然の先生である皇覚
という人が書き残している。
「恵信流」というのがあり、円仁（慈覚大師）から始まって、恵信僧都、そして皇覚法師、さらに
法然上人と連なる流れのなかに、「悪人正機」の考え方があって、「天台本覚論」の中枢だと言わ
れている。このなかに、草木は成仏するが草木つまり自然は〝非情〟であると説かれている、〝非
情〟は成仏しない。

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