２０１１年長月


　２０１１年の９月は迷走台風からはじまり、時の刻みとこころの刻みを深く、長い時間として感じていました。
夏の名残りも消えるお彼岸が過ぎ、夜長の季節になってきました。
　良い変化が訪れてきたように感じられるのです。この一月は、いよいよ二冊目の本が出た事もあり、
一つずつ宿題を片付けてきた実感があります。ずっと熟成させてしまっていた反物も、浴衣に仕立てて、
まだ手がお裁縫を覚えているのだと、嬉しくなったのでした。この反物が浴衣として活かされるまでには何と
三〇数年の、歳月といきさつがあったのです。何としても、ものづくりの一冊と合わせて仕立てるという心算
が果たせたのです。文庫番にとって、やらなければならない事を、熟慮するべき時間でもあったのでしょう。
一カ月の間に、実に様々な事があり、人の世の四苦八苦を考えていた月でもあります。
　閑居山に電話が引かれたのは、もう高校も卒業した頃だったでしょうか。それまでの交換台を呼び出す
有線とは違う、電話でした。その番号をわざわざ父は選んで４９８９としたのです。他の人が使いたがらない
番号であるならば、我が家が引き受けようと、またまた勝手な思い込みかもしれないです。焼き肉店では
喜んで４９８９を使うのだと後で大笑いでした。
　生老病死・愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦。
　
　　飯館村の酪農家の長谷川さんのお話を聞きました。地域の区長さんを務められていて、あの三月十一日
を迎えたそうです。責任としなければならない事。自分に対して、家族に対して、地域に対して、社会に対して
その一つひとつをこなし、この現状をもっと多くの人に伝えなければならないという思いが、お話を聞きながら
伝わって来ます。人に思いを伝えるというのは、一番難しい事なのですが、事実を！事実をきちんと語る事
こそ相手に伝わる言葉なのだと、思いました。
　続いて脱原発集会に参加してデモを歩きましたが、ここ数年参加したデモの中では、最大のものでした。
千駄ヶ谷の駅についても改札を出るまでの間のコンコースに、すでにぎっしりと人が居て、家族連れも、
熟年の二人連れ、熟女の集まり、白い杖に介護者も、そのように皆がそれぞれであっても意思表示を
しているのです。し続けているのです。集会デモを一過性のものだったとされてはならないのです。
　そこにあった幟に、四苦八苦のすべてを読みます。深い苦しみ、悲しみをも我が事にも引き寄せ感じて、
これほど、おおくの人達の思いを受け止められない、体制は、すでに崩壊しているのだと思います。
　時代の意識は脱原発を選んでいるのに、それは、福島も浜岡も上関もすべて含んで、そして、国の境い
も無く、次世代にと、この放射能エネルギーの利用でないいのちの在り方を選んでいるのに、極少数の
まだ利権を持っている力が拒んでいる状況なのです。この利権に結びつく仕組みの下支えを、無意識にくらし
の中で選んできた、個々の人々が、今は意識を変えてきているのです。
　今までの是としてきた事を非としても良いのではないかと。そのためにできる事を見つけた時には、
必ず繋がるのです。その強さを得たのです。
　今、インターネットの世界で表現していくのにも、いつの間にか制限が掛りつつありますが、目覚めて手を
結ぼうという人々は、その制限を跳ねのける力を持ち得ています。交換台は自らの仕組みとして見つける
のです。疑いようもなく、社会は変わっていくのです。しかし勢いを得るにはまだ慎重で良いと思います。
　もの事は、変化するという事が真理なのです。諸行無常というのは、固定した捉え方に縛られない考えを
指すのです。
　そして、お彼岸。その日が秋分であるという面白さ。台風が過ぎ野分の季節を感じたのが、また天文は巡
るという繰り返しの太陽運行図。ここに、祖霊との対話をもってきたのは、くらしの折り合いを付ける智恵で
あると思いました。
　この変化は、数世代かかっての協同の社会づくりになるのだと「山仕事讃歌」にも書きましたが、本を
出せた事によって、今まで見えていなかった多くの人達からの応援をされて居る事に気がついた月とも
言えます。応援への返礼にはまだまだ、売り方も知らないマハラバ商売なのですけれど、思わぬところ
からの応援にも支えられて、ことばの中身をきちんと作っていかなければと思っているのです。


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