　　ヘロドトスは歴史ヒストリアの中でリュディア王クロイソスがキュロス二世に征服される
必然性を書いています。
　リュディアの王権（アジアと呼ばれる地域つまりハリス河から西でさらにギリシャの各地を
服属させていた）の王権は、代々ヘラクレス家のものだった。それがクロイソスの先祖ギュゲス
に王権が移ったのは次のような話がある。

　ヘラクレス家のガンダウレス王は、自分の妃は世界最高の美女だと思っていた。
そして最も信頼していた家臣ギュゲスに　
　「わしの妃は世界最高の美女だ！信じられなければ、夜　寝所で妃の姿を見るがよい！」
　「とんでもございません、その様なだいそれたことは、とてもできませんー」
　「ではわしが手引きをしてやるからカーテンにかくれて見る様にせよ」・・・と強く命じた。
―王様　すこし意地になったのかな―
　その夜ギュゲスは　妃の寝所のカーテンにかくれて、王妃が着物も下着も脱ぎ、その美しい
裸身になった姿を見た。そして　こっそりと　ス早く逃げた。　しかし王妃は　逃げて行くその
後姿を見てしまい、すべてを覚った。
　翌日、ギュゲスは王妃に呼び出された。王妃は云った。
　「ギュゲスよ。　あなたのとるべき道は二つあります。・・・今、ここで貴方が死ぬか！
王を殺すか・・のどちらかです」
　ギュゲスは呆然とした。・・・・・・・が肝を決めた。
王妃は「昨夜と同じ様にカーテンに隠れていて、刺すのです」・・・と
かくして、王権はヘラクレス家からメルムナス家に移った。
　この様な先祖の宿業を背負っているからクロス二世に征服されても仕方がない、クロスの
征服は正当である。・・・・と云うのです。

　また狩人アルクタイオンは狩犬達と一緒に獲物を探して森の中を歩いていて、ある泉池で
女神アルテミスが水浴をしてるところを見てしまった。裸を見られた女神は怒ってアルク
タイオンを鹿に変えてしまった。アルクタイオンは鹿の姿になって森をさまようと自分の
猟犬達に出会った。犬達は鹿におそいかかった。「お前の主人だ！」と云っても、もはや
鹿の鳴き声でしかなかったので、噛み殺されてしまった。

　これらの神話は性の神秘について教えて呉れます。
性は見ても見られないし、無理して見れば命を落とす。つまり本人の価値もなくなる。
　
　この頃は、女体全公開だとかフリーセックスだとかが流行っていますが、それらのものは
問題外としても、NHKの教育テレビで、妊娠と出産の神秘などの放送をしています。しかし
それらのものはむしろ　性の神秘性を深めるだけの効果しかないのです。なぜなら、迫れば
迫るほど、真実ではない！と云う感じがますます強くなるからです。たしかに受胎と出産も
性の一部ではありますが性そのものではありますまい。
　精子の頭と尾の割合を調べても、卵子の外皮の酵素の性質をいくら調べても、性の神秘を
調べたことにはなりません。
　では性の神秘はどこにあるのか？

どれなのか？　　それは
　ゼロ（スニヤ）なのです。無いのです。無と云う表現が適切でなければ固定的なものでは
ないと表現されるべきものなのです。
　無いと云えば有るし、有ると云えば無い。それは絶えず　不断にして作り上げるものであり
　努力（？むしろ喜びかな）して獲得しつつあるべきものなのです。従って人それぞれであり、
他人の体験で済ませる訳にはいかない、キワめて個人的で決してとり換えのきかないものです。
　女体を全公開したところで性は決して公開できないし、できる筈もない。自分自身ですら分らない
もの・・・・・・でしょう。

　性は神秘なものであることに価値があります。公開すれば価値はないのです。　それは自己を失うこと
なのです。人間が自己を作り上げて行く出発点は他を拒否することに始まります。
　他を拒否して自己を守ることに自己の確立があります。

　性行為は他を拒否し扉を固くとざし　そこに二人だけの世界が作られます。
　　　　　守る秘密があるのではなく、守ることが秘密＜それは自己そのもの＞を作るのでは。

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