新解放理論研究会 本箱へ戻る
いよいよ、異端の系譜をインターネット上にアップする事になりました。父、大仏尊教（空）の４５歳の時の文章。
５３歳で亡くなっていますから、生涯の中でこの時期をどう位置付ければ良いのか、母が年譜を整理できるのか
近頃、不安にもなっていますが、この頃、高校生であった私は、カタリ派について書かれたものや、朝鮮半島の
花朗信仰などの本を、学校の勉強とは別に面白く抜き出しては、学生鞄に入れてバス通学に持っていっていた
事を思い出します。一語一語、一文字一文字が、それらの、父が資料として読み込んでいたものの裏付けから、
思想として組み立てたものだとしか言えない文庫番です。マハラバ文庫自体を開設してから条件は変わってきて
いますが、いまだに書籍・資料は手元には戻していません。
一般的に考えられている、教説からは異なって居る部分もあるかもしれません。当時、本を買うことについては
お金に頓着せず、母に頼んでいたのですが、一つの宗旨で固められた論を引くのではなく、膨大な歴史・宗教
書・一般書・思想書をマハラバの思想を体系化する下地として、読んでいた。常に、昼は誰かと論じ、本を読んで
書き物を夜遅くしていたのです。ワールド・ワイドという表現がありますが、それを宗教・社会史で見るとこの文章が
できたのでしょう。決して収入をもたらすものでないそれらの中、母がどうやってあの書物を集めることができたのか
その労苦は、私たちは感じていなかった事を申し訳なく思うのです。
父、大仏空（あきら）は、宗教、思想、哲学、社会、歴史をどの立場で見ていくべきなのかを問いているのです。
人類の社会の在り方、宗教の在り方の中に、同時代的な共通段階の発展があるとすれば、２０世紀にあった二度の
世界大戦を経験している私たち人類は、今、どこの立場で、ただ生きて行けるのかと、文庫番の仕事になりました。
異端の系譜（１）
（２）（３）（４）（５）（６）（７）（８）（９）（１０）（１１）（１２）
まず、十三世紀にあった、ヨーロッパの出来事から話を始めたい。
一、二四四年の春まだ寒い三月、ピレネー山脈のモンセギュールの山砦にたてこもった、カタリ派の人々は、王のひきいるアルビ十字軍に最後の抵抗を激しく斗かった、が敗れて生き残った者は、捕えられてことごとく磔つけ火あぶりにされて、ここに組織的な異端は息の根を止められ、再びカタリ派がヨーロッパの天地を騒がすことはなくなった、そしてこの時、完全な意味でヨーロッパは完成したと云ってよい。
しかし、散り散りになった残党は各地に逃れ、その流れは吟遊詩人そしてさらにロラードやフス派となって復活し、やがて全ヨーロッパに宗教改革の嵐が吹きまくる。
そして、この運動は日本にザビエルが来航した様に、全世界に影響を与えて行った。
カタリ派最後の拠点となったモンセギュールの山砦を、今日の学者が研究した結果では、不正五角形の設計で、冬至・夏至・春分・秋分の日出・日没には、窓から入る光が幻影をかもし出し、それは明瞭に古代ゾロアスター教（ミトラ教）の影響が結論されて居る。
つまり山砦は単なる山砦ではなく、太陽神キリスト即ミトラ（キリストとミトラの区別は、明確でなかった）の神殿であったことが証明されて居る。
ここで異端とされたカタリ派だが、アルビ十字軍を組織したインノセント法王がラテラノ会議ではっきり云う様に、「人民の退廃の原因は主として聖職者にある、信仰は死に、宗教は傷つき、異端者の増大もそこに由来する」、まさにその通りだった。
高位聖職者は妾を持ち、告解（ザンゲ）室は女をたらし込む密室であり、尼僧は姦通をたのしみ、尼僧院は赤線だった、と記録されて居る。
この時、異端者は起ち上がった、彼らは持てる全財産を貧者にほどこし、太陽を讃え清流に浴し、一切の殺生をしないで菜食主義を厳重に守り（ただし魚は食べたと云う）、人々にその福音を説いて街から町へ歩いたと伝えられる。
あのフランチェスコ聖人が太陽讃歌を作ったのは有名な話だが、この流れの中で理解すべきであり、フランチェスコ聖人が法王に謁見を求めてローマへ行こうとした時、弟子たちは行けば火あぶりされ殺されると心配した事実があり、カタリ派も聖人にキワめて親近感を持って居たことが記録されて居る、聖人の弟子たちが金銭を手にすることを拒み、どうしても手にしなければならない時は口でくわえたと云うことも、まさにカタリ派的であり、フランチェスコ派が、正統派と異端の接点に立って居たことを示して居る。
異端者もフランチェスコ派も定期的に断食を行ない、痩せていたので、ローマ教会の聖職者たちが美食に肥満し、美服に着かざって居たのと較べれば、信者たちはいやでも異端者の方が、はるかに純粋な宗教家に見えたと云う。
ではなぜ彼らが異端とされたか？教義から云えば、彼らは二元論だったと云はれる（もっともこれはヨーロッパ中心的偏見によるのだが）。
つまり、現実と理想、光の世界と闇の世界を絶対隔別し妥協を赦さない、彼岸を絶対真実とし此岸を絶対虚偽とする、その結果この世のことは、すべて虚偽の社会として否定する。
彼らの歴史はユーフラテス河畔サモサタに始まると云はれ、バルカン半島を経てヨーロッパに入ったと云はれるが、この二元論的発想はインドからローマに至るヘレニズム文化地帯では一般に見られた。
キリスト教の一つの祖形と思はれるオルフェウス教の神話では、天なる神の子がこの世に生を受け、人の罪のために死に、そして甦がえる、人は悪魔と神との両方の性を持つので、人々は神の肉と血を食して（聖餐）その秘儀に与り帰依しなければならない、ここにはいわゆる二元論なるものが見られる。
オルフェウス教の神の名、ディオヌーソスは、神（ディオ）の子（ヌーソス）の意味で、神の子・神の独り子を意味し、赤子の時に殺されそうになったので山の中にかくされて、セイレーノス（牧神の長で、彼自身ケンタウロスの一人で馬の脚と蹄＝ヒズメと尻尾を持って居たと伝えられ、恐らくは騎馬民族の反映だろう）に育てられ、ディオヌーソスが成人した後は、忠実な従者だった、と云はれる。
ディオヌーソスの前世があって、天なる神ゼウスの子として生まれた彼は、ゼウスの正妃ヘーラの嫉みによって、悪魔タイターンに喰い殺され、心臓（一説では男根）だけが残り、それによって処女セメレー（大地母ゼメレ−の訛りと理解される）は懐胎してデイオヌーソスを生んだと信じられて居た。
ゼウスは独り子（決してゼウスの子は一人ではないが後継者・太子として独りなのだ）を殺されたのを怒り、電撃を持ってタイターンを焼き殺し、その灰で人間を作る、だから人間は、悪魔の灰の材料としかしながら、神の独り子を食べてしまった悪魔なので、神の性質との二つを持ち合はせて作られた、と云うのである。
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