新解放理論研究会 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本箱へ戻る

異端の系譜（５）
　　　　　　　　　　

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　さて、ペルシャでキリスト教が弾圧されて行ったのは、先述のシャープール二世が東方攻略が済むと、コンスタンチヌスとの対決がひかえて居た。
　ゾロアスター教の司祭王＝プリースト・キングだったアルメニヤ王がキリスト教に改宗したことが問題となった。
　それはキリスト教を国教としようと「したローマ帝国の家臣となり保護をもとめることを意味する、しかしアルメニヤは伝統的にゾロアスター教つまりペルシャ帝国の一部だったのだ。
　シャープール二世は遂にアルメニアの西辺、アミダを占領し、コンスタンティヌスの後継者ユリアヌス帝は戦死し、ローマ軍は撤退したがローマは政治的にアルメニヤをキリスト教にしようとしたこゝでシャープールは徹底した、キリスト教弾圧を行なはざるを得なかった。
　なんのことはない、ヨーロッパでミトラ教が弾圧されたがペルシャ帝国内ではキリスト教が弾圧されたと云うだけのことで、東方社会の異端はキリスト教だった。
　インドはシャープールがキリスト教を弾圧した結果インドのキリスト教（十二使徒の一人トマスに由来すると伝えられる）はミトラ教・マハーヤーナ仏教の中に吸収されて行った。
　それは、ヨーロッパのミトラ教がキリスト教に吸収されて行ったのと同じことだった。
　アサンガと弟のバズバンドーが生まれた地域こそ、聖書外典トマス行伝の伝えるトマスが伝導し、インドの国王グンドファネスがキリスト教に改宗したと伝える地域なので、アサンガの宗教がキリスト教の影響で成立したと云う人も居るが、やはりアサンガ自身が云っている様にミトラに神秘的体験で教はったとする方が良いようだ。
　また、シャープール一世（シャープール二世の曽祖父）はクシャン王国を併合した皇帝だが、彼はマーニーと謁見しマーニーの教えに帰依したと伝えられ、マーニー自身、ペシャワールに居たと考えられるところから、アサンガがマニ教の影響を受けたと云う、有力な説もある。
　マニ教こそ二元論だと云って排撃された宗教で、この流れからはマツダクが出た。
　（マニ教はゾロアスター教の一分派と云えるが、仏陀の教えもキリストの教えもその中に入って居たと云はれ、聖アウグスチヌスはマニ教徒だったので当然、彼の思想の中には仏陀・ゾロアスターの教えが入って居た）。
　マツダクはバスバンドーとあまり年代は違はない頃の人と思はれるが、彼の思想は二元論的に現実社会を否定した上で、真実の社会をこの世につくろうとしたもので、特徴的な事は奴隷を中心に、貧困者や女性、賤民など現実社会で虐げられた人々を基盤とした宗教だった。スパルタクスの反乱も、これに影響されたと伝えられる。マツダクは労働こそ歴史の根元だと考えた。

　彼の運動は、カワード皇帝の支持を得た、と云うのはカワード自身、宮廷内の腐廃とローマ皇帝（ビザンチウム）のキリスト教徒を使っての国内分裂の結果、父皇帝ペーローズはエフタル（クシャン）に敗れ、賠償金を、ローマ皇帝にたて替えて貰うほどで、カワードは人質としてエフタル（クシャン＜すでにカニシカの系統ではなかった＞）に送られ、そこで育った。
　当然、ローマはペルシャ内部にキリスト教徒の力を強めることを要求したが、今度はペルシャ内部のキリスト教徒が、単性派と両性派に分裂した、これはゾロアスタ教的二元論の与えた影響とその反発の結果だと解される。
　父王が死ぬと兄を逐ってカワードは帝位についた、勿論エフタル族が後押しした。
　この様に苦難の幼時期を過し、辺境騎馬族の中で育った彼は、弱小民族や貧困者に強い共感を持つと同時に、腐廃した貴族にハゲしい斗志を持って居た。
　彼がマツダキズム運動に協力者を発見したのは当然であった。
　奴隷を解放し、貴族の財産をとり上げ、階級身分を廃止し、だれもが財産を共有する社会を作ろうとした。
　当然、彼は失脚し捕えられ、皇帝が裁判にかけられる事になった、その時、馬飼いの一人だった者が彼を脱出させた、彼は馬を駈ってエフタルに逃げ、エフタル族をひきいて都に攻めのぼり、弟帝を廃位して帝位を取りもどした。
　しかし、もはやマツダキズム運動を行うことは出きず妥協の政治を行った、と伝えられ、カワードの後継者ホスロー一世の時には、マツダキズム運動で没収された貴族の財産を返還し、マツダキズムは弾圧された。
　マツダクの教えを信奉するものはエフタルにそして更に西域インドに逃げた。
　バスバンドーの浄土教の流れは決定的に、このマツダキズム運動の影響を受けて居る。
　その後もホラズム・ブハーラなどでマツダキズム運動は散発的に地上天国を作ろうとして、その度一時的には成功してもやがては鎮圧されて行った。マーニーの一族（安息王家）のパーパク・ボドーサフ（中国名　帛仏図澄）は中国に逃れ彼の門下から慧遠が出て白蓮社を起し、後代義和団事件を起した流れとなった。この流れからは臨済も出て居る。


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