　そもそも弁証法とは、ゾロアスター教（前七世紀ガンダーラのある一寒村で神の意思を
告げる星が光る晩、ドフター＜聖処女の意＞と云う名の乙女が聖霊によって宿った人類の
救い主を産み、その児はゾロアスターと呼ばれ、彼の教えた宗教）の教えで、この世は善
と悪の闘いで、善なる階級がどのように虐げられていても、終局的に悪は滅び善は勝利す
ることによって宇宙は終る、というもので、善の勝利の後、新しい世界が千年間つづく、
と先年毎に一単位になっていることから、至福千年説ミレニアムとしてキリスト教に受け継がれ、
十二世紀末にフィオレのヨアキムと云う学殖ある修院長が、歴史を律法の時代・福音の時代
・聖霊の時代と三区分する歴史観を確立。これがスピリチュアル派によって流布され、トマス
＝ミュンツァーの思想となり、ドイツ観念論に深く影響し、ヘーゲルも若い頃は心酔していて、
ついに哲学として完成させるようになったものだ。
　ヘーゲルは至福千年王国を善の階級によるのではなく、プロイセン国家（ドイツ民族）を
もってそれに代え、マルクスは労働階級をもって来た。
　弁証法が一つの歴史観であることは、その当否は別にして成立するかも知れない。哲学
として観る時、それはヘーゲルが定式化した三つの定是を持つ。つまり、定是・反定是・
綜定是であり、綜定是＜ジンテーゼ＞によって結論が出ることになる。
　ゾロアスター教では、善と悪の階級闘争、言葉を代えれば、定是＜テーゼ＞と反定是
＜アンチテーゼ＞の闘いは何回もくり返されるが、キリスト教になると一回だけになってくり
返さなくなった。つまりイエス＝キリストだけを唯一のメシア（アラム後・ソグディァ語で測る
の意、規準・契約・友情も意味する。ヘブライ語でマーシアッハと発音すると油を注ぐの意
となり、王者・救世主とも理解できる。本来度量衡や暦の規準をつくるのは、権力者・王者
だから同じことである。ちなみに余談だが陰陽五行干支の起源は、アレキサンドロス紀元
に由来するという説は有力なのだ）としたから、その救済はイエスだけによる絶対なものだと
された。

　仏教などでは、各自一人一人が勝手に悟る（信じる）のだからその点まことにダラシがない。
そこで仏教は歴史観がないとか組織論がないとか批難される。仏誕会すらハッキリしない。
　ヘーゲルの弁証法では、まさにキリスト教の伝統に忠実に、定是と反定是の闘争のあとは
キチンと決着をつけて綜合・止揚して結論を出す。へーゲルは、定是＝神聖ローマ帝国、
反定是＝革命・ナポレオン、そして、綜定是＝プロイセン国家と考えた。
マルクスは地主（封建主義）、資本家（資本主義）、労働者（社会主義）と見た。マルクスは
社会主義に至福千年を見た。
　ヘーゲルの死後百年、彼の理論はヒットラーを産んだ。それはヘーゲル弁証法が一つの
結論を出して絶対化する！と云うところから来る。
　キリスト教では教会を絶対化し、ヘーゲルはドイツ民族を絶対化し、マルクスは労働者
を絶対化した。労働者、または労働が価値の源泉だとする思想を確立したのはロックに
始まるが、それは世襲権力や財産相続の否定から来て居り、、搾取と不労所得の否定
だった。それは正しいと思うが残念ながら働けない者の立場が、無自覚にスッポリ抜け落
ちている。そしてヘーゲルの弁証法はそれを固定化し絶対化してしまった。

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